口で説明するよりも現物を見せたほうが早いかもしれない。
「翠、少し立てる?」
「……あ、たぶん?」
「手を貸すから少し立って」
 いつもと同じようにゆっくりとした動作で立ち上がる。十二分に時間をかけて。
 でも、やっぱりだめなんだな……。
 立った瞬間、手に力がこめられた。
「せ――」
「いいから。それ、毎回言わなくてもいい。視界がクリアになったら声かけて」
 もう何度もこんなやり取りをした。そのたびに同じことを言わせるな……。
「視界クリアです」
「じゃ、こっち」
 窓際へ移動し、目の前の窓を開ける。
 外は生憎の雨降りで視界良好とは言えない。が、ライトアップされている部分は問題なく見える。
「……何を見ればいいのでしょう?」
「少し見づらいけど、真正面が駐車場の壁面になってるだろ? あそこ、クライミングができるように作られてるんだ。だから傾斜が違う」
 指で指し示すと、翠は目を細めて駐車場の壁を注視した。