「美鳥さん、またやっちゃったのね」
 その言葉に、やっぱり、と思う。
「あー……そのようだ。申し訳ない」
 と、ハスキーな声が聞こえてくる。
 対馬美鳥、この階下の住人だ。
「ずいぶんとお疲れみたいですね?」
「バカ兄貴たちが急に海外へ行くとか言い出すからだっ! こっちは締め切り前だというのにっ」
「もし良かったら、今日、うちでご飯を食べていきませんか? 食材が余ってるの」
「……栞くんが天使に見える……」
「あああ、ちょっとっ! ここで寝ないでくださいっ! 蒼くん、美鳥さんを奥に運んでもらってもいいかしら?」
「……了解です」
 美鳥さんが間違えてゲストルームのドアを開けようとすることはそう珍しいことではない。
 翠が目を見開いて、御園生さんが抱える人間を見ていた。
「対馬美鳥さん、美しい鳥って書いてミトリ。この部屋の真下、八階の住人」
 そう伝えると、翠はなんとなく状況を察したようだ。
「ロッククライマーで物書き業をしている人」
 変な組み合わせだな、と思いながら自分が持つ情報を開示すると、翠は俺を凝視していた。
 即ち、組み合わせがおかしいとでも思ったのだろう。