光のもとでⅠ

「……歩きます」
 最近は外を歩くということをあまりしていなくて、自分の筋力がどのくらいなのかが全く把握できていなかった。
 それに、外の空気というか……。風を感じる機会も少なくて、いつも建物の中にいる気がして、開放感を味わっていなかった。
 今日は生憎の曇り空だけれど、それでも外を歩きたいと思った。
 湊先生はそのあといくつかのやり取りをして電話を切った。
「今日は早退。学校医命令。……なるべくゆっくり歩いて帰りなさい。でも、道端で寝たりしないでよ?」
「さすがにそれはないと思います……」
「……冗談よ」
 微妙な会話をして保健室をあとにした。

 昇降口を出ると、桜並木を歩きながら校舎までの道のりを振り返った。
 ちょうどうちのクラスが見えるから。
 窓に見えてるのは海斗くんだけ。
 桃華さんは壁で隠れて見えなくなってしまうから。
 でも、海斗くんが私に気づくことはなかった。
 彼は授業を丸呑みしてしまうような人だから、先生から目を話すことがほとんどなのだ。
 前を向こうとしたとき、視線を感じてどこか、と探した。
 見つかるまでにあまり時間はかからなかった。
 三階の二年A組の教室。教室の後方に座っている司先輩だった。