「……なぁ、翠葉。答えられないときは答えられないでいいと思わないか?」
 海斗くんは椅子を後ろ向きに跨いで、褐色のきれいな目をじっと合わせてくる。
「……いいのかな」
 少し気まずくて上目がちに訊くと、海斗くんは表情をくしゃっとした笑顔になった。
「バカだなぁ……。いいに決まってんじゃん」
 その言葉にまだ戸惑っている私の髪の毛を引っ張ったのは桃華さん。
 思わず後ろに仰け反るような体勢になる。
「あら、翠葉ったら体柔らかいのね?」
 言われつつ、逆さに見える桃華さんがにこりと笑う。
「何をそんなに気にしてるのか知らないけど、気分が沈んでるなら飛鳥のテンションもらってやってくれない?」
 え……?
「飛鳥、無駄に元気だからちょっと迷惑なの」
 と、いつものようにきれいな笑顔でサラリと怖いことを口にする。
「何なに!? 私の元気で良ければいつでも分けるよっ!」
 飛鳥ちゃんは桃華さんの言葉など全く気にもしていないようだ。
「……っていうか、相変わらず体柔らかいよなぁ……」
 佐野くんの言葉に体勢をもとに戻す。
「……どうして知ってるの?」
 私は学校では体育の授業はいつもレポートだし、体が柔らかいことなんて知られているわけがないのに。
「だからさ、入学以前に見たことがあるって言ったじゃん」
 あ――病院のリハビリルーム……。
 そんな話をしていると先生が入ってきて、ホームルームが始まった。