「俺に?」
「うん。フロランタンとコーヒークランブルケーキ。口に合うかはわからないけど……」
 その包みに手を伸ばし、両手で受け取る。
 翠が作るフロランタンは好きだ。あと、コーヒーと名のつくお菓子にも興味がある。
 でも、教室中の視線が自分たちに注がれているその場で食べる気にはならず――。
「コーヒー飲みながら食べたいから家に帰ってから食べる」
 断りを入れて、俺は弁当を食べ始めた。
 もし、これがクラスの人間に渡したものとまるきり同じものでもかまわなかった。
 そこを分けろと言っても翠にはできないと思うし、無理に分けさせるつもりもない。
 ただ、翠が俺に……と言うのなら、これは俺のために用意されたものなわけで――。
 テープで貼り付けられたメッセージカードには、「いつもありがとう。これからもよろしくね」の文字。
 嵐や優太の言うとおり、バレンタインのなんたるかを翠がきちんと理解しているかは怪しい。ただ、やはりそんなことはどうでもよく、自分のために用意されたお菓子とメッセージカード、それだけで十分だった。