翠のクラスはそれなりに賑わっているものの、俺が教室に入ると一瞬だけしんとした。すぐにまた賑わい始めるものの、どこか様子をうかがわれているような気がしてならない。
 そんな折、
「ツカサ、機嫌悪い?」
 翠に訊かれて「別に」と答える。
「……なんだかとっても悪そうに見えるよ? だって、眉間にしわ」
 細い人差し指が寄ってきて、俺の眉間をつついた。
「フロランタン食べたら機嫌直る?」
 翠の癖、首を右に傾げて訊かれる。
 チョコじゃなくてフロランタン、という言葉に反応した自分がいた。
「今日、バレンタインでしょう? だからね、お菓子を焼いてきたの」
「はい」と、目の前に差し出されたのは透明な袋に入れられたお菓子。英字印刷がされたオイルペーパーには二種類のお菓子が挟まれていた。そのうちのひとつがフロランタン。