ヴァンタン

「実はお前にはお姉さんがいた」
パパが突拍子のない事を言い出した。


「お前の産まれる十年前。ママは一人の女の子を産んだ」

私は身構えた。
これからパパの話す事がとても重大な意味を持つと直感したからだった。


「でもそれは死産で……ママは苦しんだ。パパは仕事で一緒にいてやれなかった」

パパの辛さが良く解る。


外国航路の船長に、母と一緒にいてやれる時間は無かったのだろう。


まして航海中の船からの帰国など許される筈も無かっただろう。

パパもママもきっと苦しんだ筈だ。
私はそれでも明るく振る舞っていた母に逢いたくてたまらなくなった。


「ごめん。お前を見ていたら、生きていたらきっとと思えて」


――お姉さんが生きていたら……もしかしたらお・ね・え・さん?


――えっ!?


――えっ、えー!?


――私がお・ね・え・さん!?