ヴァンタン

「ママー。パパの鏡知らない?」
最後の手段だった。
私はチビの振りをして母の部屋に声を掛けた。


『どうしたの? 興奮して眠れない?』
此処へ来る前に浴室でのやり取りした姿を思い出す。

母の声に変わりはなかった。

ついさっきまでいた時代が懐かしい。


「そうなの。もう一度あの鏡を見たいと思って」

私は又聞けた母の声に思わず涙ぐんでいた。


『でもあれって本当に魔法の鏡なの?』


「パパがそう言っていたから、間違いないと思うよ」


『ママねー、あれは絵だと思ってリビングに掛けたけど……だって怖がって居たでしょう?』


「でも、パパのお土産だし……それに、もう屋根裏部屋で寝ないから大丈夫」
私は精一杯の嘘をついた。

だってこれから魔法の鏡を探検するなんて言える筈がない。