ヴァンタン

 浴室のタイルは母の選んだラベンダー色。

エンジ色のコーナーラックはパパが見立てだと聞いている。


其処にある鏡に、私は又クロスペンダントを指に絡めて写す。


パパの思い出の中に身を置いた時、何かが弾けた。


でも、結局……

何も思い出せず……

浴室に虚しさが渦巻いただけだった。


――パパ〜!!

私は何故か鏡を見ながら心の中で叫んでいた。