ヴァンタン

 そう言えばいつの間にかパパが居ない。

もう十年も会っていない気がする。

でも私はその事に疑問を持った事がない。
母一人子一人は当たり前だったから。


パパは外国航路の船長だった。
だから何時も留守がちだったのだ。


何時かお土産に貰ったクロスペンダント。
又指に絡める。
パパを思い出すと良くやっていた癖。
これにどんな意味があるのか解らないけど、心が不思議と落ち着く。


――そうか。さっきパパの事を思い出しかけたんだ。


――パパ今何処に居るの?


――パパ逢いたいよ。

私はフェイスタオルで懐かしい遊びに没頭した。
パパの存在を身近に感じたくて。