ヴァンタン

 一坪ある浴室。
足がゆったり投げ出せるバスタブ。
今日の入浴剤はラベンダーらしい。
リラックス効果があると母が言っていたのを思い出した。

手のひらで掬っては指の間から零す。


フェイスタオルを見て、昔良くやっていた懐かしい遊びを思い出した。

早速挑戦してみる。

まずお湯にタオルを付け親指と人差し指を広げる。
タオルの下に両手を離して入れ、上に持ち上げ軽く湯の上に置く。
タオルに出来たコブを寄せると風船のようになった。

ジュブーと音を聞きながらタオルを潰す。


懐かしい音だった。
そう言えば、昔良くパパがやってくれた。


――パパ!?


――そうだ。パパは何処に居るのだろう?


――パパ今何処に居るの?


頭の中で堂々巡り。


答えなどすぐに出る筈がなかった。


――何故私にはパパの思い出が無いのだろう……?

思いは結局其処へたどり着く。