ヴァンタン

 母の目を盗んで、持って来た携帯をそっと開く。

雅も慣れたもんで、じっと待っていてくれる。

とりあえず作戦は大成功したかに思われた。


「あ、雅……じゃあなかったジョー」


『ん?』

雅の空返事は、相当待ったと言う意思表示だ。


又遣っちまったと言う後ろめたさがあったが、私はそのまま会話を続けた。


「聞いて貰いたい事があるの。いいジョー……?」

大人になる事が怖いから、本当はこのままで居たいと時々思う。


そんな弱気な自分に気付き、雅への電話を躊躇っていた。


何故だか解らないけど、私は大人になる事に抵抗感があった。


――私は子供のままでいなければいけない。

ずっとそう思って生きてきたのだった。