貴之の目が、一気に覚めてしまった。

 綺麗な形の二重瞼がパッと開く。
 寝癖でぐしゃぐしゃの長めの前髪がジャマだったので、とにかく急いで視界を作ろうと、それを大雑把に掻き分ける。

 彼の行動には特別意味もないし、無論無意識だった。


 戸惑う貴之などお構い無しに、電話の相手は更に謎の言葉で彼を苦しめた。

『それから、毛布やタオルをたくさん用意しておいて』

「……じ、自宅出産でもする気か?」

『とりあえず、詳しいことは後でだ。あと10分もしないうちに着くからよろしく。じゃ』

 
 貴之は、ツーツーという通話終了の電子音を聞きながらしばらく立ちすくんだ後、とりあえずヤカンでお湯を沸かし始めた。

 続いて彼はテキパキと洗面所からタライを持ってきて居間に置く。

 そして、家中の毛布やタオル、おしぼり、ハンカチを集め、念のためティッシュと濡れティッシュとトイレットペーパーも用意した。