貴之は、美葉達に背中を向けたまま、カウンターの前で立ちすくんでいる。

 その姿は暗闇の中に消えてしまいそうだったが、やがて店と家を繋ぐ扉の所まで戻ってきた。

 貴之は、手に何かを持っていた。



「……これは、親父がオレに残してくれた形見だ。絶対になくすな、大切にしろ、と言われた」

 彼の手には、使い古されたコースターがあった。



「コースター……」
 沢下が繰り返すと、貴之はまた歩き出した。

 美葉と沢下もその後に続き、三人は再び居間に戻った。

 居間に入った途端、貴之は壁際の引き出しの中からハサミを取り出すと、躊躇もせずそのコースターの端を切り出した。