ミックス・コーヒー

「なぜ、行っていないと嘘をついたのですか?」

「すみませんでした。その日は、ただなんとなく山に行きたかったんですよ。正直に、理由もなく行ったと言うと疑われると思ったので……。ただ、たしかに嘘はつきましたが、私は殺したりしていませんよ。その証拠だけでは私を犯人にはできないでしょう」

 沢下は「たしかに」と呟くと、自分のポケットから黒い手帳を取り出した。

「一筋縄ではいかないと思ってましたよ。では、今度はこの写真を御覧いただけますか?」

 手帳から抜いた写真を、川村に見せ付けるように、テーブルの上に置く。

「女性物のハイヒールですね」
 川村の言ったとおり、その写真には女性物の少しレースが施された赤いハイヒールが写っていた。

「これは、菅浦さんの履いていたハイヒールです。それも、彼女が行方不明になる当日に買ったばかりの新品です。友人の証言やレシートからも明らかです。こちらも昨日、山中の捜索中に見つけました。遺体が発見された場所から少し離れた所に落ちていました」