①

 ここ最近は、時々、暑さで汗ばむこともあった。
 もうすぐ初夏らしい。

 そろそろ今日も、この小さな喫茶店では、従業員達のオヤツの時間を向かえようとしている。

「美葉、コーヒー入ったぞー」

「はいはい」
 貴之の呼びかけに答えたのは、なぜか尚樹だった。
 まるで田舎のお母ちゃんのように、いそいそと小走りでキッチンからやってくる。

 美葉はというと、聞こえてはいたようで、ゆっくりとこちらにやってきてカウンター席に座り、無言でコーヒーをすすり始めた。

 見慣れた光景に、貴之は溜息を一つつき、自分もカウンターの前に腰をかけた。



「……そのコースター、アンティークな感じだね」
 美葉の視線は、コーヒーポットの下に敷かれたコースターの方にあった。

 貴之が「イヤミか! ただ古いだけだろ」とつっこむ。