貴之は言葉は返さず、彼女の頭をゆっくり、優しく撫でた。



 少し経って、美葉の呼吸の音が若干変わるのを感じた。鼻をすする音も聞こえる。

「思い出しちゃった」
 
 貴之はふと、手を止める。

「時々、思い出すの。貴之と尚樹に優しくされると……昔を」
 貴之の手を握る。

「ホントは、好きだったの。……お父さんの、おっきくてキレイな手。優しい手が……大好きだった」



 憎い、だけなら良かったのに。
 そうだったら、どんなに、どんなに良かっただろう。