砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

「――毬姫、ですか?」

 龍星の言葉に、童はわずかに青ざめた。
 が、次の瞬間きっと唇を噛んで体制を立て直す。

「何故、そう思われる?」

 その声は、凛として涼やかなものであった。

「では、お名前をお伺いしても?」

 童は、一瞬逡巡した後、息を吐いた。

「――そうよ、毬。
 あなたは、安倍龍星さまでお間違いなかったかしら?」

 先ほどより少し高い、甘い声。
 こちらが彼女の素の声なのだろう。

「ええ。
 それにしても、もうすぐ日も暮れるというのに何をされているのですか?
 お父様が心配されていましたよ」

 龍星は穏やかに話す。
 毬はあからさまに顔を顰め視線をそらした。

「自分の心配をしているのよ。風変わりな姫がいるなんて知れたら、出世に響くと嘆いているだけでしょう」

 一気に捲し立ててから、改めて龍星を見た。
 幼さの残る顔の中で、意志の強そうな黒い瞳が美しい光を放っている。