もちろん、そのような気持ちなどおくびにも出さず、ゆったりと唇を開く。
「そうですね。試しに、雅楽など習わせてはどうです?」
「雅楽――、か」
しかし、と、タヌキが首をひねる。
「あのはねっ返りに何かを教えるなど容易なことではないぞ」
「僭越ながら、遠原殿ならば適任かと」
一瞬間を取り、思考を巡らせたタヌキは、ほぉ、と意味ありげに唇の端をゆがませた。
「雅之殿か。確かに、今まで女性につけて筆や琴など習わせようとしても一切上手くいかなんだ。雅之殿ならば、あのじゃじゃ馬娘を手なずけてくれるかもしれんな」
タヌキはその案に乗った。
遠原の血筋なら、仮に姫と恋仲に落ちても遜色ない――などという、腹黒い心づもりもあるだろう。
自分で投下した釣り針とはいえ、あまりにもわかりやすい下心をあらわにしながらその釣り針を飲み込んだタヌキの態度に辟易した龍星は、早々に話を切り上げ、左大臣家を後にした。
「そうですね。試しに、雅楽など習わせてはどうです?」
「雅楽――、か」
しかし、と、タヌキが首をひねる。
「あのはねっ返りに何かを教えるなど容易なことではないぞ」
「僭越ながら、遠原殿ならば適任かと」
一瞬間を取り、思考を巡らせたタヌキは、ほぉ、と意味ありげに唇の端をゆがませた。
「雅之殿か。確かに、今まで女性につけて筆や琴など習わせようとしても一切上手くいかなんだ。雅之殿ならば、あのじゃじゃ馬娘を手なずけてくれるかもしれんな」
タヌキはその案に乗った。
遠原の血筋なら、仮に姫と恋仲に落ちても遜色ない――などという、腹黒い心づもりもあるだろう。
自分で投下した釣り針とはいえ、あまりにもわかりやすい下心をあらわにしながらその釣り針を飲み込んだタヌキの態度に辟易した龍星は、早々に話を切り上げ、左大臣家を後にした。


