「やりきれない話だな」

 話を聞き終えた雅之は、ため息をついた。

「鬼になるようなものが語る話はどれも似たり寄ったりさ。
 そう、感情移入しないことだな」

 龍星は遠くに眼をやりながら、さらりと言った。

「それにしても。
 千姫は何を思って桜の下から鬼を拾ってきたのだろうか」

「似てたんじゃないか?
 波長が」

「いや、千姫は十分美人の類だろう」

 噂に疎いというのは、時に罪だなと龍星は思う。

「……あの男がどうして千姫を正妻に選んだか知っているか?」

「いや」

 長い話を聞かせたばかりの龍星は、あっさり首を横に振る雅之に、どこから話してよいものかと一瞬迷い、直後説明を諦めた。

「……まぁ、いろいろあるのさ」

「ふぅん、いろいろあるのか」

「そういうことだ」

 いろいろ、か。
 良くは分からないが、きっと恋の数だけいろいろとややこしいこともあるのだろうと、雅之は自分を納得させて杯に残っている酒を一気に煽った。