砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 暫くするとバタバタと騒々しい足音が響いてきた。

「申し訳ありません。姫様が見当たりません」

 女房が頭を下げる。
 ふう、と、タヌキが重いため息をついた。

「このとおりなのだ、龍星殿。あの子にはほとほと手を焼いておる。
 故あって、しばらく都から離れたところに置いていたのだが、千と瓜二つのものを鄙びたところで野放しにさせ続けておくのもいかがなものかと思い直し呼び戻したのだが。やはり、都の空気はあの子には合わないようだ。
 来年は齢(よわい)13になるというのに、着裳(ちゃくも)させることもままならない。何とか良い手はないだろうか」

 この、人生思うがままのようなタヌキにもままならぬことがあるとは。
 それでも、手放さないところを見るとそれなりに利用価値があると踏んでいるのだろう。

 
――特に、その優れた容姿が。


 どこまでも計算高いタヌキだな。
 既にこの時点で、龍星はまだ見たこともない姫の肩を持ちたくなっていた。