「は?」

 それまで、あまりにも突然の提案を前にぼうとしていた帝が、急に我に返る。

「何を――」

 千はことさら艶やかな笑みを浮かべる。

「あら、帝もぜひ毬にお礼がしたいと申されていたではありませんか」

 千はもちろん、帝の毬への想いには当の昔に気づいていた。
 だから、帝が毬に手を出すことを防御するためにも、ここでお礼を理由に二人の関係を公にしておこう――と、秘かに企んでいたのだ。

「そ、それはそうだが……」

 帝は言葉を濁すと、少しばかり顔を出した毬に改めて問う。

「毬は、それが望みなのか?」

 毬はちらりと龍星の横顔を見上げた。
 結婚は、左大臣である父親が反対するとしか思わなかったので、考えたこともなかった。

 嬉しいけれど、龍星に迷惑は掛からないだろうか、という想いが心を過る。

「私は――、でも、――」

 龍星は毬に視線を移すと、端正な顔を崩してふわりと笑う。
 傍から見ている千さえも胸がきゅんとするような、美しく、甘さ漂う笑顔だった。

「俺のことなら心配には及ばない。
 毬さえ良ければ、喜んで」

 場所も弁えず毬を引き寄せ、その耳元にそっと囁く龍星。
 帝に見せつけるように耳に紅い唇を這わせるのも忘れなかった。

 緊張と羞恥と、そして嬉しさとで毬はさらに真っ赤になって、それからこくりと頷いた。


「――はい、望みです――」

 小さな声は、それでも、新たな世界が広がる希望と期待に満ちている明るいものだった。