翌日、二人は弘徽殿へと向かった。

「龍星を出仕させるためには、毬を呼ぶほか手だてがないのか」

 帝は開口一番、不機嫌にそう言った。
 千はおなかがかなり出てきたものの、すこぶる元気そうでそれを聞いてころころと笑う。

「あら、いいではありませんか。
 この二人、とてもお似合いですわ。
 以前よりも雰囲気も変わって、すっかり夫婦といった感じもしますもの」

 千は遠慮なく、意味ありげな視線を龍星に送る。
 龍星は涼しい顔で聞き流すが、隣に居る毬が途端に真っ赤になって狼狽えるのだから、二人の間に【何か】があったことは隠しようもなかった。

「――あ、あのね、お姉さま」

「いいのよ、毬。
 何も言わないで。
 私、余計なこと想像しちゃいそうだから」

 毬はついにいたたまれなくなって、龍星の背中の方に隠れてしまった。

「あらあら、すっかり懐いてしまって。
 でも、からかうためだけに来てもらったわけではないのよ。
 先日は、本当に申し訳なかったわ。
 傷の調子はどうかしら?」

 千はさらりと話題を変えるが、毬は動揺が収まらずに二の句がつけない。

「見るからに元気そうではないか」

 代わりに答えたのは、益々面白くなさそうにふてくされていた帝だった。