帯にそっと手をかける。

 彼女に今必要なのは、休養と睡眠。
 
 頭の中ではわかっていた。
 感情に流されないのは、自分が最も得意とすることの一つだとも弁えていた。


 それなのに。

 今は、自分を律することがまるで出来ない。

 これではまるで、几帳の中に入ってきた唯亮と同じ水準ではないか、という想いがちらりと頭を掠めたが、自分の下に組み敷いて周知に瞳を潤ませている毬を目にしたら、そんな考えもどこかに飛んで行ってしまった。


 恋する人が歌を詠む理由も、叶わぬ恋の行く末を嘆いて世を儚むものの気持ちも、考えようと思ったこともなかったけれど。


 今ならわかる。


 この、愛しい人を。
 甘く香る身体を。
 そのかけらさえ、誰にも渡したくない。

 すべて自分のものにして、永遠に閉じ込めておきたい。

 
 甘い声も、熱い吐息も、湿った肌も、高まる鼓動も、悲鳴に似た嬌声も。
 零れる涙も、溢れる蜜も、蕩けるほどの熱い熱も、絡みつく肌も。



 このままずっと、永遠に、深く重なり続けておきたい。
 腕の中に縛り付けておきたい。


 無理だとわかっていても尚、そう思ってしまう自分を、衝動のままに動いてしまう自分を、今夜ばかりは止めることができそうになかった。