「唯亮殿。
夜も更けるばかりで
本日のところはどうかお引き取り下さいませ」
騒然とした空気を鎮めるように、毬が涼やかな声で言う。
事実、部屋の空気が一陣の風が吹いた後のように一瞬で清められた。
「お父様のことで、気が高ぶっていらっしゃるのですわ。
まずは、弔い喪に服して、少し落ち着かれたほうが宜しいと思うのです。
差し出がましいようですが」
きっと、唯亮は疲れているから、何かひどく混乱しているに違いない、と、恋愛経験値の低い毬は単純に決めつけていた。
しかし、唯亮のほうはその言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「姫様は本当に、お優しいのですね。
ますます素敵なお方です――」
――え? と、怪訝そうな顔をして首を傾げる毬だが、唯亮にその姿が見えることはない。
はぁ、と龍星は深いため息をついて頭を抱えると、この責任を取るためにも自分で送るという雅之を止めて、自前の牛車に半ば強引に唯亮を押し込んで右大臣邸へと送り届けさせた。
夜も更けるばかりで
本日のところはどうかお引き取り下さいませ」
騒然とした空気を鎮めるように、毬が涼やかな声で言う。
事実、部屋の空気が一陣の風が吹いた後のように一瞬で清められた。
「お父様のことで、気が高ぶっていらっしゃるのですわ。
まずは、弔い喪に服して、少し落ち着かれたほうが宜しいと思うのです。
差し出がましいようですが」
きっと、唯亮は疲れているから、何かひどく混乱しているに違いない、と、恋愛経験値の低い毬は単純に決めつけていた。
しかし、唯亮のほうはその言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「姫様は本当に、お優しいのですね。
ますます素敵なお方です――」
――え? と、怪訝そうな顔をして首を傾げる毬だが、唯亮にその姿が見えることはない。
はぁ、と龍星は深いため息をついて頭を抱えると、この責任を取るためにも自分で送るという雅之を止めて、自前の牛車に半ば強引に唯亮を押し込んで右大臣邸へと送り届けさせた。


