「ほら、可愛い妹のために約束の氷を持ってきた」

「あ……ありがとうございます」

 毬は仕方なく手を伸ばして、氷を受け取った。受け取った氷を、女房である華が現れすぐに持っていった。
 涼しいところにおいておかなければ、すぐに溶けてしまうからだ。


「で、御用はお済みですか?」

 龍星が慇懃無礼に問う。

「まさか。
 折角陰陽頭に報告があって訪ねてきたというのに。
 そう、邪険にするものではない。
 気になるだろう?右大臣がどうなったか」

 龍星は、無表情に戻って答えた。

「死亡、あるいは廃人になったというところでしょうか」

「あっさり言うな」

 帝は鼻白み、肩を竦める。

「まぁそうだ。
 戻った時には息を引き取っておった」

「――では、唯亮殿が右大臣家をお継ぎに?」

 龍星とは違い、右大臣死去の報せに驚いた毬が思わず口を挟む。

「まぁ、形式上はそうなるかな。
 あの若さでは、即座に右大臣という役職までは継がせるわけにはいかないが」

「――ということは、和子様の入内も……」

 中止?と言いかけた毬は我に返って口ごもる。
 先ほど、その話題を口にして帝に口付けられたばかりだった。

「中止になるだろうな」

 帝は、さらりと言う。
 そして、魅惑的な笑みを浮かべた。

「だから、毬。
 安心して入内するといい」

 その言葉に毬は、先ほどの口づけを反射的に思い出し、思わず耳を触ってしまう。与えられた熱が、甦るのが怖くて。