「龍……」

 歩き出した龍星に、抱き上げられた毬が、掠れた声で囁く。

「このまま眠っていればいい。
 今日は家に帰れるよ」

 先ほどまでの氷のような冷たい言葉を放っていたのと同一人物の声とは思えない。
 溶けるような甘い声で龍星は答える。

「でも、私」

「何?」

「和子様とはお話してないわ」

「そうだね。
 別に、構わないよ。全ては無事に終わった。
 無事に終わらないときの布石だったのだから、気にしないで」

「そう?
 私、龍の役に立った?」

「とても。だから、少しお休み」

 暗示のような言葉と、落とされた唇付けに安堵を覚えたのか。
 毬は龍星の腕の中で、引きずられるように眠りに落ちた。


 龍星は愛しい姫をその腕に抱いたまま、どこからともなく現れた牛車へと乗りこんだ。