砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 龍星は動じることもなく、ゆっくりとその瞳を開く。
 黄泉の世界への入り口を思わせるような、底知れぬ黒い世界をそこに秘めていた。

「何故とは聞き捨てなりませんな。
 行家を唆(そそのか)して、謀反を行わせたのは貴方でしょう?」

 凛とした声が、あたりに響く。

「何を言う?
 私にそのような力があるとでも?
 私はただの囚われの身。
 何を夢想しても自由ではないか」

「夢想、だと?」

「そうさ、眠りを貪り、ただ、夢を見ているだけ。
 嵐山の中で、行家が姉を襲うという、夢を見ていただけ」

 ぞっとするような声が、彼の信じる真実を告げる。

「それでも罪になるとでも?」

 自分の優位を悟ったか、やや得意げにそれが問う。

 龍星はその瞳を眇めて、怨念を真っ直ぐに見つめた。
 怨念の視線を、からめとるようにじいと見る。

「……くっ。
 何をするっ」

 奈落の底へと人を導く、ひたすらに闇色の瞳。
 修行を積んだ陰陽法師でもない、ただの右大臣はすぐに恐怖に目を見開いた。

 龍星は言葉をかけない。

 その紅い唇に白い指をあて、再び何事かを唱えた。

「滅」

 最後の一言と同時に、印を結ぶ。

 途端。

 悲鳴とも呻き声ともつかないおぞましい声をあげながら、煙は空へと霧散していった。