庭に出た一行。
晩夏の夕暮れは、まだ蒸し暑く毬は軽い眩暈を感じていた。
「大丈夫?」
皆が龍星の持つわら人形に注目している中、雅之がいち早く異変に気づいた。
毬は頷くが、雅之は一歩傍へと近寄ってくれた。
気まぐれな風が、黒髪を浚っていく。
龍星は、荒れ果てた庭の草木が生えていない部分に棒で五芒星を書く。
その真ん中に、帝が持ってきたわら人形を置いた。
唇に指をあて呪を唱えると、続けていくつかの印を結ぶ。
周囲の空気の色が段々と濃くなるようで、毬は不安な気分に襲われた。
思わず傍に居る雅之の手を掴む。
龍星は揺らぐこともなく、低い声で呪を唱え続ける。
まるで、戦が始まったかのようにその周辺の空気だけがぴんと張り詰めていくのが、その場にいる皆にも伝わっていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
橙色だった夕日が、かなり薄暗くなりかけた頃。
ついに、そのわら人形から煙のような何かがふわぁと浮き上がってきた。
「くぅうううううっ」
歯噛みとも、罵声ともつかない声が、その煙から上がる。
「お父様」
「父上?」
和子と唯亮がほとんど同時に驚きの声を上げた。
まるでその言葉に誘われたかのように、煙が右大臣の形を成していく。
苦しそうに、その口許が歪む。
「……何故私を捕まえたぁ……」
怨念の篭った、地を這うような声が辺りに響く。
晩夏の夕暮れは、まだ蒸し暑く毬は軽い眩暈を感じていた。
「大丈夫?」
皆が龍星の持つわら人形に注目している中、雅之がいち早く異変に気づいた。
毬は頷くが、雅之は一歩傍へと近寄ってくれた。
気まぐれな風が、黒髪を浚っていく。
龍星は、荒れ果てた庭の草木が生えていない部分に棒で五芒星を書く。
その真ん中に、帝が持ってきたわら人形を置いた。
唇に指をあて呪を唱えると、続けていくつかの印を結ぶ。
周囲の空気の色が段々と濃くなるようで、毬は不安な気分に襲われた。
思わず傍に居る雅之の手を掴む。
龍星は揺らぐこともなく、低い声で呪を唱え続ける。
まるで、戦が始まったかのようにその周辺の空気だけがぴんと張り詰めていくのが、その場にいる皆にも伝わっていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
橙色だった夕日が、かなり薄暗くなりかけた頃。
ついに、そのわら人形から煙のような何かがふわぁと浮き上がってきた。
「くぅうううううっ」
歯噛みとも、罵声ともつかない声が、その煙から上がる。
「お父様」
「父上?」
和子と唯亮がほとんど同時に驚きの声を上げた。
まるでその言葉に誘われたかのように、煙が右大臣の形を成していく。
苦しそうに、その口許が歪む。
「……何故私を捕まえたぁ……」
怨念の篭った、地を這うような声が辺りに響く。


