砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 和子は気圧されたように一瞬押し黙ったが、元々覚悟を決めているのだろう。

 扇子をおろすと、黒い瞳で真っ直ぐに見えぬはずの御簾の向こうに目をやった。

「誤解を抱かれておられます故、正直に申し上げます。
 私は長い間、入内することを夢と抱いて暮らしておりました。
 元々は、父の言い出した願望だったやもしれません。しかし、今となってはこれは私個人の野望なのです。
 かの、貴布祢明神に出向きこの御髪を捧げたのも、誰かを呪う為ではございません。
 ひとえに、私の思いを神仏に聞き届けて頂きたくてやったものです。
 そこに、父の意志など微塵も入ってはおりません」

 強い口調で淀みなく、和子が告げた。

 毬にも、和子の並々ならぬ想いが伝わってくる。
 しかし、龍星の声には微塵も変化がなかった。

 冷氷の君という名、そのままの体温すら感じさせぬ冷たい声が凛と響く。

「では、この謀反に関してもなんらご存じないと」

「当然ですわ。
 私、側室の身に何の不満もございませんの。
 正室である御台様とは、仲良くとはいかないかもしれませんが、うまくやっていきたいと望んでおります。
そ のような私が何ゆえ、凶行に走るような手助けを?」

「分かりません」

 龍星の発する言葉からは、彼の感情など誰にも伝わっては来ない。


 緊張の糸が部屋中に張り巡らされているようで、毬も呼吸することさえ苦しくなってきて思わず眉を潜めた。