行家は、冷たい牢に黙って座っていた。

 その目を閉じている姿からは、修行中の僧のような気迫が漂っている。

「行家」

 龍星は、それをあっさりと突き破るような冷たい声を掛けた。
 能面を思わせるような無表情からは、どんな感情も読み取れない。
 その中で、紅い唇だけが妖艶に蠢いて言葉を発する。

 行家は瞳も開けず、身じろぎすらしない。

 険しい表情のまま、座禅を組み続けている。

「行家」

 龍星はもう一度、声を掛けた。
 それは磨き上げた剣のように、尖って、容赦ない輝きを帯びている声だった。

「……」

 行家は微動だにしない。

「道剣と会うか?」

 行家は反応しない。

「右大臣と会うか?」

 やはり、反応しない。

 

 しかし。

 龍星はその、静かな空気の中で、微かに、ほんの僅か見せた行家の動揺を確実に掴んでいた。

 ……糸を引いていたのは、右大臣か。

 龍星は確信する。

 しかし、とっくに右大臣は帝に捕らえられていたはずだ。

 龍星は、くるりと踵を返す。

 重苦しい空気の中、ただ黙ってその様子を見守っていた帝と雅之は、かける言葉も思いつかず、その迷い無い足取りの後ろを追っていくほかなかった。