頬への唇付けを受けながら、毬は諦めたように苦笑した。
 どれほど言葉で『責任は自分に無い』と龍星に言わせても、心の奥で彼が感じている後悔まで、毬にぬぐってあげることなど出来ないのだ。

 今度毬が人質にとられるような事態が発生したら、迷うことなく、この陰陽師は彼女を助けるためだけに簡単に命すら投げ出すのだろう。

 そういう意味では、図らずも彼の弱点になってしまったことに申し訳なさすら感じてしまう。

 だけど。
 今の毬にはそれをどうしてあげることも出来そうに無い。

 毬はぱふっと、龍星の着物に顔を埋めた。
 大好きな香の匂いに包まれる。

「龍は絶対私の傍に戻ってきてくれなきゃ、駄目よ?
 それで、私にいっぱい唇付けてくれなきゃ許さないんだから」

 死なないでと、精一杯の想いを込めて、毬は慎重に言葉を紡ぐ。
 自分のために愛する人が命を賭けてくれて、それに何の意味があろうかと思う。

 死ぬなら共に。
 生きるのも共にでなければ、意味など無い。

 愛する者が自分のために命を亡くしてしまうなんて。
 それを思って独りで生きながらえていくなんて。

 それは、拷問でしかない。
 拷問は、愛ではない。と、今の毬はそう考える。

「約束する。だから、いい子で待っていて?」

 龍星の言葉に、毬は一度だけ深くこくりと頷いた。

 二人は一度だけ、何かを確かめ合うように水音が滴るほどの、熱い唇付けを交わす。



 それは、まるで。

 戦いの火蓋を切った合図のようでもあった。