砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

「帝、このたびは……」

 毬はそのやり取りに我に返ると龍星の胸から顔をあげて、困ったように唇を開いた。
 帝はそれを制する。

「もちろん、私にも千にも謝らないでくれよ?
 でなければ、私はあなたの傷を想って、夜も眠れなくなってしまう」

 毬はかすかに表情をほころばせる。
 無理難題を押し付けて人を困らせるばかりの人だと思っていたが、意外にも相手の性格を読み込んですぐに会話に活かす事が出来る辺りに、帝の技量を感じたのだ。

「分かりました。
 でも、これからどうされるんですか?
 私でお役に立てることがあれば、なんなりと……」

「いや、それは無理だな。
 今度姫に何かを頼んだら、私がこの陰陽師に呪い殺される」

 龍星は二人の会話の途中も、毬の身体を離す気は微塵もないらしく、その身体を抱き寄せたままだ。

「ええ、末代まで祟りますよ」

 龍星はしれっとそう言い添える。
 帝は冗談っぽく肩を竦めた。

「ほらね?
 この国の行く末よりも、貴女一人を選ぶと言い切る男には敵わないよ。
 だから、ゆっくり休んでおいで。
 入り用なものがあれば何でも遠慮せずに言うといい」

 毬はその親しげな雰囲気に、自然口調を崩す。

「氷が欲しい」

 毬は遠慮せずに口を開く。
 帝に揃えられぬものは何も無いのだ。

「いいとも、持たせよう。他にも唐から取り寄せた目新しいものを送り届けるから、それで気を紛らすといい」

「ありがとう」

「構わないよ。千のことを姉と慕うように、私のことも兄のように慕ってくれればいいのに」

「――帝っ」

 龍星が短く警告する。
 確かに、帝の御前で色々見せ付けたのは反省すべき点ではあるが、帝も図に乗りすぎだ。

 御簾も扇子もなく、ここまで真っ直ぐに人の目を見て話しをするなんて、このご時勢、相手が女性でなくても非礼である。この際、そもそもここに姿を現した毬が非常識だとは、龍星は考えない。