龍星と雅之が都の端にあるとある邸宅に着いたのは、日もとっぷりと暮れた後だった。

 しかし、先に飛ばしておいた式神のお陰で事情を知っていた帝が、腕の立つ侍医を招いていてくれていた。
 少人数のものだけが、その邸宅へと招かれている。

 侍医は、眠ったままの毬を手際よく診断した。
 幸いにも、耳、首ともに縫うほど深い傷ではなかったので、このまま休ませておけば良いとの言葉に、龍星は僅かながら胸を撫で下ろす。

 しかし、どちらの傷跡も残り続けるだろうということは、医師の見立てなど聞く前から想像がついていた。

 行家の方は最低限の処置を済ませ、牢へ入れることとなった。
 道剣とは顔を合わせない様、密かに別の牢へと入れられた。


 全ては夜のうちに、秘密裏に執り行われた。

 龍星と雅之はそれから一日その邸宅で休養することを命じられた。

 ……帝が強引にそうでも言わなければ、二人とも疲労を押してすぐにでも動き出すことは明白だったからだ




「大変だったな、龍星」

 三日目の朝、その邸宅を訪れた帝がぽつりとそう言った。

 毬がこうなったのも、千を守るためだ。
 仕方が無いという思いと、申し訳ないという感情が帝の胸に浮かんでは消えていく。

「いえ、全て私の不手際が招いたものです」

 龍星は粛々とそう告げて、詫びた。

 雅之は否定の言葉を告げたかったが、思いつかずに一度開いた唇を真横に結びなおした。

 重々しい空気が、爽やかな朝日差し込むその部屋の明るい雰囲気さえも容赦なく押しつぶしていくかのようだった。