弓を背中に携えた雅之が、馬を二頭調達して戻ってきた。
ここら辺の馬にしては、やたら大きく毛艶も良い、なかなかに見事な馬だった。
雅之は馬から降りて、まず床に臥せっている男の様子を確認した。
火だるまかと思われたが、燃えたのは幸いにも服だけで、本人は気を失っているだけだった。
「――っ」
しかし、雅之はその男の顔を見て驚きのあまり思わず息を飲む。
「死んだか?」
龍星はその男には全く興味がなさそうに言葉を投げた。
「いや。
息はある。それより詳しいことは俺にはわからぬが、これは――」
雅之は龍星だけに聞こえるように囁いた。
「唯亮殿だ」
龍星は一瞬、耳を疑った。
これは左大臣家の千姫の療養へ向かう列だ。
そこに、右大臣家の唯亮が参加するはずがない。
しかし、雅之の見間違えということもあるまい。
「それは放ってはおけぬな」
言うと、唯亮の様子を見に向かう。
龍星の目から見ても、着物こそ焦げているものの、奇跡的に唯亮に深い傷はなさそうだった。かすり傷程度だ。
それにしても、右大臣の息子ともあろう人が、わざわざこのような着物を着て身分を偽ってまでここに混ざるとは酔狂な……、と、いう想いは龍星の心のうちに飲み込んでおいた。
「――あ、あの――。
騒ぎはもう落ち着いたのですか?」
どこからか、戻ってきた近衛少将が雅之に声をかける。
「ああ。
龍星、これからどうする?
一度都に戻って体勢を立て直すべきか、それとも……」
「いや。
一度戻ると大げさなことになりかねぬ」
龍星は雅之を通じて、近衛少将にこれからのことの指示を与えた。
ことはできるだけ秘密裏に運んだほうが良いだろう。
御台様を連れて一度京に戻るが、皆は戻ってくるまで近くの別荘で待機しておくように、と。
ここら辺の馬にしては、やたら大きく毛艶も良い、なかなかに見事な馬だった。
雅之は馬から降りて、まず床に臥せっている男の様子を確認した。
火だるまかと思われたが、燃えたのは幸いにも服だけで、本人は気を失っているだけだった。
「――っ」
しかし、雅之はその男の顔を見て驚きのあまり思わず息を飲む。
「死んだか?」
龍星はその男には全く興味がなさそうに言葉を投げた。
「いや。
息はある。それより詳しいことは俺にはわからぬが、これは――」
雅之は龍星だけに聞こえるように囁いた。
「唯亮殿だ」
龍星は一瞬、耳を疑った。
これは左大臣家の千姫の療養へ向かう列だ。
そこに、右大臣家の唯亮が参加するはずがない。
しかし、雅之の見間違えということもあるまい。
「それは放ってはおけぬな」
言うと、唯亮の様子を見に向かう。
龍星の目から見ても、着物こそ焦げているものの、奇跡的に唯亮に深い傷はなさそうだった。かすり傷程度だ。
それにしても、右大臣の息子ともあろう人が、わざわざこのような着物を着て身分を偽ってまでここに混ざるとは酔狂な……、と、いう想いは龍星の心のうちに飲み込んでおいた。
「――あ、あの――。
騒ぎはもう落ち着いたのですか?」
どこからか、戻ってきた近衛少将が雅之に声をかける。
「ああ。
龍星、これからどうする?
一度都に戻って体勢を立て直すべきか、それとも……」
「いや。
一度戻ると大げさなことになりかねぬ」
龍星は雅之を通じて、近衛少将にこれからのことの指示を与えた。
ことはできるだけ秘密裏に運んだほうが良いだろう。
御台様を連れて一度京に戻るが、皆は戻ってくるまで近くの別荘で待機しておくように、と。


