砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 直後。

 ザクっという音と、「ウッ」という呻き声がほぼ同時に耳に入る。
 反射的に動く行家の右手の短剣から逃れるように、毬は膝を曲げて渾身の力で後ろにその身体を蹴り上げる。

 同時に、今まで身を潜めていた白が現れ、がぶりと行家の足を噛んだ。

 倒れそうになる反撃でもがいた手に握られていた短剣が、毬の黒髪を僅かに切り落としていく。着物も乱れるが、知ったことではなかった。
 行家の左腕から力が抜けていく。力を失った右腕から短剣が落ちるのを見届ける間もなく、毬はそこから駆け出した。

 迷うことなく、龍星の腕の中に。

 直前の毬の合図と、雅之の発した<トビの鳴き声>で心積もりのあった龍星はいまや冷たいほどの無表情に戻っていた。毬をその腕で抱きとめると、呼び出した式に毬の保護を命じた。


 確実に冷静さを取り戻した龍星は、行家に近づくとその手元の短剣を蹴り上げて遠くに飛ばした。
 毬の血が、滴る短剣だった。

 行家の左肩には、雅之が放った矢が突き刺さっている。
 見事なほど、迷いなく急所を捕らえている。

「残念だったな。
 お前も道剣のところに連れて行ってやるよ」

 がくりと膝を突いて息を荒げている行家の背中を龍星は踏みつける。
 瞳には冷酷な色だけを残し、その声には何の迷いもない。
 同時に、素早く呪を唱え印を結び、行家が呪で攻撃できないようにすることも忘れなかった。

 陰陽法師の弟子なのだ。
 何をしでかすか、分かったものではない。

 龍星は圧倒的な力で、行家を封じた。
 容赦する気など、微塵もなかった。