砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 もはやこの場には、行家と毬、そして龍星。
 それから、地面に横たわっている男しか居なかった。


 雨雲が去り、威力を吹き返した夏の日差しが、容赦なくそこらを照りつける。

 じりじりと、皆の体力を奪っていく。
 蝉の声だけがやかましい。
 空気がぴんと張りつめていて、まるで、そこだけ時が止まったようだった。
 指先一つも自由に動かせないような、重苦しい静寂に似た緊張感の糸が周到に張り巡らされているかのようだ。

 誰の顔にも玉になった汗が浮かんでは、下へと流れ落ちている。

 毬の着物は、徐々に朱で染まっていく。



 ピーヒョロヒョロヒョロ

 どこか遠くで鳶が鳴いた。


 毬は深く息を吸う。その視線の先には、冷静になりきれない龍星が居た。
 毬は、顔を微動だにさせず、口角を僅かにあげて微かに笑ってみせる。
 緊張で強張っているわけではないことを、示すかのように。
 白い肌に絶え間なく流れる紅い血のせいか、彼女の顔は妖艶にすら見えた。

 それを瞳の中だけで捉えた龍星は、何も見なかったかのように表情をまるで変えない。
 無表情は、得意なほうだ。