砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 首筋に突きつけられた短剣。
 むせかえるような草いきれ。

 毬はそっと呼吸を潜める。
 本当は、叫びだしそうなほど怖いけれど、少しでも動くとその鋭い切っ先が皮膚や血管を破りそうだった。

 毬だって、本気で短剣を使って龍星を刺し殺そうと思ったことがある。
 だから、その殺気が本気であるかどうかくらい分かるつもりだった。

 もっとも、死んだと思っていた兄が急に現れたと思ったら自分に剣を突きつけているという事態を納得したわけではないが。

 恐怖を脇に追いやって、頭を巡らせる。
 そこら辺で、青ざめてわたわたしている連中に助けを求めても無駄。

 でも、雅之なら……。
 自分が雅之なら、と、毬は恐怖で強張った頭を必死に巡らせる。

 彼は弓の名手だ。
 だから。

 多分、自分が思ったことと同じ事をしてくれるだろうと信じ、毬はその衝撃に耐える心積もりをした。


 龍星は深く息を吸う。
 ここでただ動揺しているわけには行かない。

 汗ばむ手のひらに内心ぎょっとしながら、再び息を吸った。

「行家、今腕の中にあるのは御台様だと知っての謀反か?」

 行家の目は、昏く、そして据わっていた。

「ああ」

 その声に、いささかの迷いも無い。

 それから、薄く笑って付け加える。

「お前の大事なモノだとも知っている」

 龍星はその言葉にはあえて反応しなかった。

「何故こんな大それたことを?」

「裏切れねぇんだよ、それだけさ」

 自分の命の恩人を、命を張って助けよう。
 それが、迷いに迷った行家の出した最後の結論。