砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

「毬っ」

 鋭い声が耳に入る。

「龍?」

 その声で我に返った毬が、顔をあげようとした。
 

 その時。

 がつりと乱暴に手が握られ、その身を引き寄せられた。
 はらりと、衣被が落ちていく。
 驚くほど乱暴な仕草に、毬は目を瞠る。

「どうしたの?」

「――へぇ。
 姉さんじゃなくて、毬だったんだ。
 それも面白いな」

 行家は小さく呟くと喉の奥でクッと笑った。

「さぁ、どうしたと思う?」

 そう言うや否や、行家は毬の喉元に短剣を突きつけていた。

「行家っ」

 突き刺さるのは、龍星の怒鳴り声。
 周りの者たちは、急な出来事におろおろするほか無い。

 列の後ろに居たはずの雅之も、近くまで駆けつけてくれていたが、毬の喉元に短剣を突きつけられていては身動きが取れなかった。

「お望みどおり、俺の姿で出てきてやったんだ。
 喜んでくれてもいいんじゃない?」

 張り上げたはずの声は、長い間ろくに発声されていなかったのか、聞きづらいほどしゃがれていた。

 龍星は答えない。
 剣の切っ先が今にも毬の皮膚を突き破ろうとしている。
 それを顔色一つ変えずに見ているのが、やっとだった。

 幾度か深呼吸を繰り返し、いつもの自分を取り戻そうと試みる。

「犯罪者では、帝に紹介できないな」

「いいよ、もうそれ。諦めた。
 それよりさ、師匠を返してよ。この姫と引き換えで、行こうぜ」

 乱暴に言って、ぺろりと、赤い舌で自分の唇を舐める。
 その姿は野生の虎を思わせるような凶暴振りを秘めていた。

 とても、毬と元の顔の造りが同じだとは思えない。
 そのくらい、歪んだ顔をしていたのだ。