――翌朝
毬は再び牛車に乗り込み、一行は嵐山目指して再び歩き始めた。
緑濃い山の中へと足を踏み入れていく。
毬は牛車の心地よい揺れに、何度も眠りに誘われていく。
「ぎゃぁっ」
少年の悲鳴で目が覚めた。
同時に、牛の動きが止まる。
「どうしたの?」
衣被を乱暴に取り寄せ籠から顔を出した毬は、目の前に広がる光景に息が止まった。
目に入ったのは、腕を切りつけられて膝をついている牛飼童。
そして、血の滴る剣を持っていたのは……自分にそっくりな、死んだはずの双子の兄、行家だったのだから。
「……に、い、さ……。行家?」
毬は慌てて訂正する。
千なら、行家を『兄さん』とは呼ばない。
ギロリ、と、兄の眼が毬を見た。
見慣れたそれとはまるで違う。鬼のような形相に、毬は息を呑む。
「生きていたの?」
それでも、死んだと思っていた兄が生きていたことは毬には嬉しいことだった。
行家は、すうと息を吐くと、まるで数年前に戻ったかのような懐かしい笑顔を浮かべて見せた。
「ああ、そうだよ。
会いたかった。
元気にしていた?」
「――うん」
その雰囲気に引き込まれたのか、はたまた術でもかけられたのか。毬はつられたようににこりと頷き、差し伸べられた行家の手に、思わず手を伸ばしていた。
毬は再び牛車に乗り込み、一行は嵐山目指して再び歩き始めた。
緑濃い山の中へと足を踏み入れていく。
毬は牛車の心地よい揺れに、何度も眠りに誘われていく。
「ぎゃぁっ」
少年の悲鳴で目が覚めた。
同時に、牛の動きが止まる。
「どうしたの?」
衣被を乱暴に取り寄せ籠から顔を出した毬は、目の前に広がる光景に息が止まった。
目に入ったのは、腕を切りつけられて膝をついている牛飼童。
そして、血の滴る剣を持っていたのは……自分にそっくりな、死んだはずの双子の兄、行家だったのだから。
「……に、い、さ……。行家?」
毬は慌てて訂正する。
千なら、行家を『兄さん』とは呼ばない。
ギロリ、と、兄の眼が毬を見た。
見慣れたそれとはまるで違う。鬼のような形相に、毬は息を呑む。
「生きていたの?」
それでも、死んだと思っていた兄が生きていたことは毬には嬉しいことだった。
行家は、すうと息を吐くと、まるで数年前に戻ったかのような懐かしい笑顔を浮かべて見せた。
「ああ、そうだよ。
会いたかった。
元気にしていた?」
「――うん」
その雰囲気に引き込まれたのか、はたまた術でもかけられたのか。毬はつられたようににこりと頷き、差し伸べられた行家の手に、思わず手を伸ばしていた。


