帝の説得と、翌日の準備を整えた龍星は機嫌を損ねたままの毬を連れて、牛車に乗って御所を出た。

 まだ、日は沈んではいない。

「毬、そんなに膨れてないで」

 龍星が優しく声を掛けるが、毬は視線さえ絡めずにそっぽを向いている。
 ふわりと、その身体を背中から抱きしめる。

「俺のこと、嫌いになった?」

 否定なんてさせないような、柔らかくどこまでも甘い音色の声を、耳元でそっと囁いた。
 不機嫌な気持ちの奥にあるまだ柔らかい部分を、そっと甘噛みされたような官能的衝撃が身体に走り、毬の頬が朱に染まる。

「そんなこと、ない」

 消え入るような声を聞くと、そっと耳朶に唇付ける。

「それは良かった。
 毬に嫌われたら、生きていけない」

 先ほどまでとはまるで別人。
 色恋沙汰にしか興味の無い公達のような台詞に、毬は驚いて顔を向ける。

 龍星はその視線を甘い視線で絡めとり、蕩けるような接吻を繰り返した。

「も……龍、ずるい」

 ようやく解放された、湿った唇から漏れる声は抗い難い色気を帯びている。
 しかし、龍星はその頬をそっと両手で挟み、耳元にさらに蜜のような言葉を流し込む。

「ずるいのは毬だよ。
 俺をこんなに虜にさせて」

 蜂蜜に砂糖をまぶしたようなとびきり甘い言動にすっかり心を解された毬は、これ以上何の反論も思いつかず、誘(いざな)われるままそっと龍星の胸に頭を預けた。