「右大臣家の和子様、です」

 緊張感を伴った静寂が、部屋を満たしていく。
 一瞬、千の顔色が変わった。

 それから、扇子をぱちりと鳴らすと彼女らしく強気に笑って見せた。

「面白いことを言うわね、龍星。
 折角平和に暮らしていたのに、わざわざいざこざを持ち込むと?」

「平和は退屈でしょう、千様には」

 龍星の紅い唇に、艶やかな笑みが浮かぶ。

「あら、良く分かっておいでね。
 どうせなら、あんなさなぎ放って置いて、私にすれば良いのに」

 千が大胆に龍星を誘う。

「生憎ですが、帝相手に戦っても勝てる気がしません」

 龍星は感情を見せない、見せ掛けだけの甘い笑顔を作って言う。
 しかし、それは。
 千を満足させるに十分な表情と返答だった。

 ふぅ、と息を吐き千は笑う。

「あら、優等生の答えねぇ。つまらないわ。
 良いわよ、和子とやら。
 入ってくればいいわ。
 どうせ、私の足元にも及ばないような女なんでしょう?」

「さあ。
 私はお会いしたことがないので存じませんが」

 龍星は涼しい目で答える。

「入ってくればいいじゃない。
 私なんかに勝ち目がないこと、その目に見せ付けてあげる。
 あら、もしかしてさっきの帝の困り事ってそのことなの?」

「ええ、そのようですよ」

「私のことなら気にしないでって伝えておいて。
 対立するどころか、こっちの手中に収めて見せるわ。
 右大臣家の女房までもね」

 きらり、と、千の瞳が強気の輝きを増す。
 それは、千の色香をも輝かせて見せた。