千も毬もつられたように口を閉じる。

「まずは、毬に何か飲み物でも出してやってもらえませんか?
 酷く興奮している」

「ええ、いいわ」

 千はぱちりと手を打って、裏に控えていた古参の女房を呼んだ。
 左大臣家に仕えていたものなので、毬とも当然顔見知り。

「この子、少し休ませてあげて」

「かしこまりました」

 べぇーだ、と、千に向かって舌を出す毬を連れて女房は別の部屋へと向かう。
 その子供じみた仕草に、千は一瞬顔を綻ばせるが、すぐに表情を整え、龍星を見た。

「どのことかしら、龍星」

「そのことですよ。そろそろお分かりなのではございませんか?」

 龍星はあえて千から言葉を出させようとしている。

「……側室、のことかしら」

 千は面白く無さそうに、唇を開いた。

「ええ。
 しかも、とびきりの相手ですよ」

「誰?
 まさか、貴方が毬を手放すって言う話じゃないわよね」

 だったら面白いんだけど、と、千が茶化す。

「残念ですが、違います」

 一呼吸置いてから、龍星は静かな声で続ける。