龍星はその足で、毬のところへと戻る。

 毬は真っ赤になって千と何事か言葉を交わしていたが、龍星の姿を見るとさっと立ってその胸に飛び込んだ。

「もう、おうちに連れて帰ってよっ。
 お姉様がいじめるのっ」

 龍星は子供をあやすようにその髪を撫で、くすりと笑う。

「あら駄目よ。
 良い気晴らしが出来て楽しいのに。
 それに、悪いのは毬じゃなくて龍星よ。何、子供をたぶらかすような悪戯してるのよ」

 何処まで聞き出したのか。
 千の瞳が妖艶な輝きを見せる。
 退屈を持て余したお姫様は、こうやって人をからかって遊ぶのが大好きだった。

「だから、毬は子供じゃないって言ってるでしょっ」

 毬がきっと顔を上げ、千を睨む。

「毬。
 千様は退屈を持て余してらっしゃる上に、お疲れなんだから。あんまり真正面に話をしてはいけないよ」

 龍星がわざと千に聞こえるように囁いた。

「だって」

「あらあら。やっぱり毬にはそうやって子供のように甘えておくのがお似合いね。
 いっそ、帝に大人にしてもらえば良いのに」

「もお!!お姉さまの馬鹿っ」

 幼い頃、離れていた時間を取り戻すかのように、姉妹喧嘩は続く。

「そのことなんですが、御台様。
 少しお話よろしいですか?」

 龍星はそれを、静かな声で中断させた。
 室内に漂っていた幼さを感じさせる空気が、一変する。