――一方、こちらは緊張感など微塵もない龍星邸。


 毬は紐におもりをつけたもので、黒猫をじゃらして遊んでいた。
 が、ふと思い出したように顔をあげる。

「龍星、大丈夫かなぁ?」

 雅之は寄ってきた黒猫を膝に抱き上げながら首を捻る。

「龍星は、都で一番の陰陽師だと信じているけど?」

「私も信じてるわよ。
 それは……。
 でも、そういうのって危なくない?」

 毬は真剣な目で龍星を見る。

「例えば?」

「うーん、例えば。
 雅之は都で一番笛が上手なのよね?」

「いや、誰かと競ったことがないから分からない」

「じゃあ、もっとうまい人が現れたら?」

「一緒に奏でてみたいな」

 毬は願った答えが返って来ずにぷくっと頬を膨らませて、それからすぐ瞬きして笑って見せた。
 なにせ、今は毬がどれほど拗ねても頭を撫でて宥めてくれる人はいないのだ。

「じゃあ、私頑張る。雅之が一緒に奏でたいって思うまで」

「それは楽しみだ」

 雅之は人好きのする笑顔を浮かべる。

「……っていうか、そういう話がしたいわけじゃなくてね」

「何?」