砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 まるで新婚夫婦のように仲睦まじい二人が、深い眠りについている頃――

 毬の憑坐から半ば強制的に引き剥がされ、自らの身体に戻るほかなかった藤崎行家は、冷たい石畳の上で一人、震える身体を抱きしめていた。

 前回、龍星の傍に現れたときは分からなかったのだ。
 彼がこれほどの力を持っていたとは。

 普通、力のある陰陽師を目の前にすれば、その『力』が見えるものなのに、あの一見優男風の美貌の持ち主には、それがまるで見えてこなかった。



 もちろん、道剣の口を割らせた、とは噂で聞いた。
 しかし、それは事前に他の陰陽師が下ごしらえをしたからであろうと、思い込んでいたのだ。

 凄腕と噂の陰陽師は、何をするわけではない。
 ただ、感情すら読み取らせないような優雅な笑みをその唇にのせ、綺麗な声で愛を囁くように言葉を紡ぐだけだ。



 正直な話。
 龍星が口にする言葉の、どこまでが「普通」でどこからが「術」なのか。
 まるで行家には分からなかった。

 そして、それが底恐ろしいのだ。
 身体の震えが今も尚止まらない。

 龍星はいつだって、行家の息を止めることが出来ただろう。
 憑坐の毬に傷の一つもつけずに。

 それなのに、まるでそんなことには興味がない様子で、ただ、優雅に甘い笑みを浮かべていたのだ。
 綺麗な花を見たときのように、素敵な音楽を耳にしたときのように、ただ、にこりと。

 人が、こんなに真剣に命を懸けて勝負に挑んだというのに……。
 歯牙にもかけてもらえなかった。