甘い交わりで終わった夜が、ゆるりと明けた。
  
 とはいえ、まだ、明け方には早い時間。

 龍星は、変わっていく空気の色に薄く瞳を開いた。
 隣には、乱れるだけ乱れて眠ってしまった可愛い姫がいる、はずだった。


 龍星はその、毬の手を掴む。

 毬には不似合いな、チッという、忌々しげな舌打ちが確かに聞こえた。
 龍星が瞳を開けると、毬はにこりと微笑んだ。

「龍星、もう起きたの?」

 それは、どうみても『アイツ』の演技。前よりは少しうまくなったと褒めてやっても良いくらいではあるが。
 龍星の瞳の色が一瞬にして冷たくなる。

「お前がこなければ、まだまだ寝てたさ」

 チッと、再び毬が、いや、毬の身体に入り込んだ何者かが舌打ちをする。
 その表情は、いつもの毬とは別人のものになっていた。
 地獄を見てきたものだけができる、険しい表情、とでも言えばよいだろうか。

 漆黒の闇の中でも、龍星にはそれが見て取れた。
 夜目が利くのだ。



「せめて夜着くらい、着せてやればいいんじゃない?」

 思春期の少年を思わせるようなぶっきらぼうな物言いに龍星は身体を起こす。
 もっとも、龍星のほうは寝着をきちんと身につけていた。

「そうだな。
 お前が来ると知っていれば、そうしてやればよかった。
 お前はどうせ女も知らぬ石牢のなかででも暮らしてるんだろう?」

 気の毒だな、と、馬鹿にしたように龍星が言い放つ。

「石牢なんかじゃない!
 道剣様には良くしてもらってる」

 反射的に、少年がそう言い返し、枕元に無造作に投げてある夜着をその身に纏う。
 龍星は瞳を眇めただけで、何も言わなかった。