「あれは、謀反に繋がる可能性があると聞き及びましたが。
ま、まさかこれも?」
神主の御髪を見る目が、汚いものを見る目つきへと、そのとき確かに変貌した。
龍星は動じることなく、宝物(ほうもつ)を手にするような優雅な仕草でそれを持ち直し、春の光を思わせる柔らかな笑みを零す。
「案じることはございません。
未だこの件を知るものは、私と神主殿、それに高龗神(たかおかみのかみ)、それに呪詛を掛けた本人だけにございます。
御神体には誠に勝手ながら私のほうからお話させていただきましたので、そちらにご迷惑をおかけすることは一切ないかと存じます」
神主の瞳に不安と羨望を交えた光が宿ったのを、雅之は見逃さなかった。
「おお、安倍殿。
誠にあいすみませんが、私、これから大事な約束がございました。
先に失礼させていただきます」
神主は、不意にとても大事なことを思い出したようにそう言うと、くるりと背を向けて、自分の所有地にもかかわらず、足早にそこを出て行った。
「龍星、今のはどういう……」
龍星は、先ほどまでの人当たりの良い余所行きの笑顔を引っ込めて、腹に一物持つような黒ささえ感じさせるような笑みを唇元に浮かべて雅之に返す。
「ここで話すのはさすがに失礼だろうよ。
日が落ちる前に屋敷に戻らないと、我がお姫様が怒るからな。
帰りすがらにでも話そうではないか」
二人は、ようやく貴布祢明神を後にした。
ま、まさかこれも?」
神主の御髪を見る目が、汚いものを見る目つきへと、そのとき確かに変貌した。
龍星は動じることなく、宝物(ほうもつ)を手にするような優雅な仕草でそれを持ち直し、春の光を思わせる柔らかな笑みを零す。
「案じることはございません。
未だこの件を知るものは、私と神主殿、それに高龗神(たかおかみのかみ)、それに呪詛を掛けた本人だけにございます。
御神体には誠に勝手ながら私のほうからお話させていただきましたので、そちらにご迷惑をおかけすることは一切ないかと存じます」
神主の瞳に不安と羨望を交えた光が宿ったのを、雅之は見逃さなかった。
「おお、安倍殿。
誠にあいすみませんが、私、これから大事な約束がございました。
先に失礼させていただきます」
神主は、不意にとても大事なことを思い出したようにそう言うと、くるりと背を向けて、自分の所有地にもかかわらず、足早にそこを出て行った。
「龍星、今のはどういう……」
龍星は、先ほどまでの人当たりの良い余所行きの笑顔を引っ込めて、腹に一物持つような黒ささえ感じさせるような笑みを唇元に浮かべて雅之に返す。
「ここで話すのはさすがに失礼だろうよ。
日が落ちる前に屋敷に戻らないと、我がお姫様が怒るからな。
帰りすがらにでも話そうではないか」
二人は、ようやく貴布祢明神を後にした。


