朝食を取りながら、式からの報告を随時受ける。
 巷には本当に色々な噂が流れているものだなぁと、面白おかしくそれを聞いていた龍星は、その中から一つ、有用と思われる情報を見つけ出した。

『貴布祢明神に、呪詛の呪物として女の頭髪が置かれていた』

 幸いほかに、頭髪が絡んだ情報は無い。


 龍星は、律儀にも朝早く、しかも約束どおり馬を携えて訪ねてきた雅之を伴って、貴布祢明神に足を運ぶことにした。

 辿りつく頃には、もう、だいぶ日が高く上がっていた。

 夜は丑の刻参りで有名なそこも、太陽の光に当たっては陰の空気が浄化されるのか、さしておどろおどろしい雰囲気はない。
 龍星はそこを司る神主に話をつけ、呪物として備えられている御髪(おぐし)を手に入れることに成功した。

 確かに、良い姫のものなのだろう。
 艶やかで、よく手入れが行き届いている御髪だった。

 神主も、この呪物を置いたものを見てはいないようだった。
 龍星は一人、ご神殿へと入り、しばらくの後そこから出てきた。白い紙に包んだ御髪を持って。

 心配そうな顔をしている年配の神主に、人当たりのよさそうな艶やかな笑顔を向ける。



「高龗神(たかおかみのかみ)からも、許可を得ましたのでご心配には及びません。
 無益な血が流れるよりも、こうしたほうが良いというものです」

「し、しかし。 
 それでは安倍様が呪詛返しにあったりはなされませんか?」

 龍星は一瞬、不快感をこめて見開いたが、すぐに平常心と笑顔を取り戻して告げた。

「ご心配ありがたく存じます。
 けれども、この呪詛が叶えられてからではよりことが大きくなると存じます。
 先の左大臣家の私寺、法泉寺で呪詛が発覚した折、そこの土地がどれほど掘り返されたか、お噂はお聞き及びかと存じますが。
 同じようなことをこの場に持ち込むのは不本意ではございませんか?」

 丁寧な言葉遣いと鋭い視線で、神主にここで問題が起きた折にさらに降りかかるであろう不幸を予想させる。
 神主は、ごくりと生唾を飲み込んだ。