龍星は杯を空けて笑う。

「それは受け取る方の問題だ」

「まさか」

 龍星の話は、とても信じがたいものだった。

「いくらなんでも、それはないだろう」

 龍星は色気があるともとれそうな笑みをその唇に浮かべ

「試してみるか?」

 と、からかうように囁いた。


「いや、結構」

 雅之は降参を表すように首を降る。
 どこまでも、実直な男は親友の毒を含んだ誘いを真顔で断る。
 予想を裏切らない返事を聞いた龍星はつまらなそうに、酒を仰ぐ。

「確かに、発するほうの問題も無くはないが。
 たいていのことは、受け取るほうに問題があるというものだ。
 それは、呪に限らず。
 『ごきげんよう』の一言を愛の囁きと受け取るものもいれば、悪意に満ちた挑発と受け取るものもいる、ということさ」

「よく分からぬが、そういうものか?」

「ああ、そういうものだ」

 雅之は煙に包まれたような心持になって、仕方なく酒を仰ぐ。
 龍星は面白そうに笑う。

 そして、これ以上この話を続けてもラチが明かぬとばかりに話題を変えた。

「それより、雅之。
 明日、右大臣家のご令嬢の髪の毛、探しに行かないか?」

「心当たりがあるのか?」

「今はまだ。
 ただ、明日になれば心当たりくらい出てくるさ」

「何故?」

「都の名物、噂だよ。
 噂が真実を運んでくることもある」

「……よく分からぬが、龍星がそうだというのであればそうなのだろうな」

「ああ、そうさ」

 噛み合っているような、噛み合っていないような会話が続き、夜闇はますます濃くなっていく。
 龍星の膝の上で毬は、ただただ深い眠りに落ちていた。